木曜日、Mが銀座のクラブをお休みする日。
だから、いつもはデートの日。
でも、昨日はデートは無し。だって、別れることになっていたから。
20:00
昨日は仕事の後、久しぶりに旧友らと会った。
この半年間、Mとばかり過ごしていたので、不思議な開放感。
地下の日本料理屋でシャルドネ2本、冷酒6合を空けてほろ酔い気分。
店をでると、スーツのポケットの中で携帯電話が鳴っている。Mからだ。
「メールは見てくれた?」、思いつめたMの声。
今、地下の店からでてきたばかりだからまだ見てない。
「何度も何度も電話したの。何度も何度もメールしたの。心配でおかしくなりそうだったの」
ごめん、ごめん。でも、飲みに行くって言ってあったじゃない。
「それにしても連絡が遅すぎる。心配だから会社にもご自宅にも電話しちゃった」
こらっ!
23:00
2軒目のBarでBOWMORE15年のソーダ割りを4杯飲む。頻繁にMから電話がかかってくる。
さすがに心配なので、友人と別れて、Mの家までタクシーを飛ばす。
「おまえの意外な一面を見た。そういうことをするやつだとは思っていなかった」、事情を知った旧友が驚いている。
1:30
Mの家の前で電話をする。
「あなたから連絡がないから、睡眠薬を飲んで今眠るところ。キレイにしていないけど、少しだけ話せる?」
Mと、いつものBarまでタクシーを飛ばす。
「ほんとうにつらかったの。どうにかなりそうだった。こんな私にしたのはあなたのせいよ。責任とってください」
「とりあえず手切れ金をすぐください」
「だれか一緒に旅行に行ってもらうつもりなの。落ち着いたらもう一度だけあなたに会ってあげる」
もう、別れるんだから、好きにしていいよ。
「平然としているあなたの表情、大っ嫌い!馬鹿!馬鹿!馬鹿!」
憔悴しきったMを抱きしめてキスをする。
2:30
「もう少しおつきあいをつづけたら、なんで別れるのかあなたにもわかると思うの…」
睡眠薬と2杯目のドライシェリーが効いて、Mのろれつがまわらなくなってくる。
これ以上、飲ませたら危険だ。
Mを抱えて、Mの家までタクシーを飛ばす。
3:00
帰宅してから携帯電話の着信履歴を見る。
何十回もMからの着信履歴が記録されていた。
どんなに辛かったろうか。かわいそうで涙がでそうになった。
7:00
シャワーを浴びて、ネクタイを締めているとMから電話。
こんなに早くにどうしたの?大丈夫?
「まだ大丈夫じゃない。昨夜は睡眠薬を飲んでいたから話した気がしなかった。今日、会って話できる?」
一日スケジュールが詰まっているけれど、Mの仕事が終わった後だったら大丈夫だよ。
「とても苦しいの。このままじゃ仕事ができない。だから仕事の前に会いたいの。今回だけはわがまま聞いて」
わかった。必ず会いに行く。
19:00
Mを連れて深川不動尊におまいりにいく。信仰心が篤いMは深くこうべをたれて祈っている。少し落ち着いたようだ。
「ほらみて、私が祈ったら空が晴れてきた!」、嬉しそうなM。
風が北にシフトして、西から厚い雲が近づいてくるのに気づいていたが、Mにはだまっていた。
京漬物の近為で、Mのご両親とM用にそれぞれ漬物をおみやげに買う。
深川丼の店で、熱燗と深川丼のコースメニューをMにすすめる。
この二日間、Mがほとんど食事をしていないのを知っている。
「ドレスを着て、こうしてあなたと下町で飲んでいると、若旦那とキャバレーのホステスみたいだね」
Mがキャバレーのホステスに見えるか、クラブのホステスに見えるか、それはエスコートしている男性次第だよ。
「だからキャバレーのホステスみたい」
ムカ!
20:30
日本酒でMのほほが桜色に染まり、表情もあでやかになってきた。食事もすべてたいらげた。
もう大丈夫。とてもきれいだよ。これなら銀座でパキっと働ける。
笑ってうなずいたMを銀座に送り届けてオフィスに戻る。
0:30にMを迎えに行くまで仕事の続きをしよう。
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